災害研究・調査の方法 災害は自然現象によって発生した、自然破壊、動植物生態系破壊、 人間の社会生活破壊などの総称として定義する。従って、自然現象 の研究と災害研究は車の両輪として取り組まなければならない。 災害の定義から、研究分野は人文・社会・自然科学はもとより、 情報科学も含めた、学際的研究が要求される。 災害地域の特定は、人間の住家や人工構造物の破壊と生命・財産 の喪失した範囲だけではなく、自然や動植物の生態系にまで考慮す る必要がある。 災害原因である自然現象は台風・降雨・津波を除き、その予知は  非常に困難であり、ほとんどの場合、突然発生する。それだからと  いって、災害対策をおろそかにはできない。繰り返し襲来する自然  現象による災害からの教訓が、回を追うごとに国民のために生かさ  れてきたか、はなはだ疑問である。ややもすれば、自然現象そのも  のの研究に国家資金の大部分が浪費され、災害科学の充実に回され  べき資金がないために、研究者と技術者の数不足、研究条件の整備  がおろそかにされてきたといっても、過言ではない。   災害原因の調査について、災害を受ける側、すなわち、国民や動  植物が生存する地域の総合的な把握が、常時なされているというこ  とが決定的に不足している。特に、地盤、地質、土壌、地形、大深  度地下構造などは、災害を大規模に発生させる複合誘因となり、そ  れらの研究は大切である。   災害発生後の被害状況は自治体から発表され、マスコミが報道し  初めてその事実を知る。被災者は復旧に大変な作業を強いられ、被  災者同士の連帯感は、ずいぶん後のことである。自治体の対応は被  害実態の調査のみに終始し、被災者の救済策よりも、経済的損害額  の算出に職員を動員する。国策として、災害に対する個人救済は行  わない、という錦のみ旗を盾にして、被災者集団の会見すら拒否を  するのが普通である。度重なる被災を被る国民は、今日、裁判に救  済の請求を行うことが多くなった。それは、自治体が被災者の救済  を初めから放棄してきたことに対する怒りが、行わせているといえ  よう。   自治体が発表する災害復旧策は、いずこも同じく、経済効率を高  めるものであり、被災者の救済よりも、道路、港湾、ビル、鉄道、  などの人工構造物にたいする公費支出策である。   災害原因の自然現象の研究を軽視し、災害発生後の国・自治体の  被災者を無視する対応策から、裁判に提訴する件数が多くなるのは  必然である。   被災者の訴えを、真剣に受け止める、民主的な弁護士集団が、ほ  とんどの事例に関わり、公判を維持する中から、民主的科学者集団  に、事の真相を明らかにする調査、を依頼することが多くなってい  る。   科学者集団で公・災害を専門とするのは、国土問題研究会(略称   、国土研)であろう。この団体は、伊勢湾台風の調査に関わった 科学者・技術者が調査活動の中で、国民のための災害対策を柱とす る、研究団体として国土問題研究所を設立した。その後、名称を変  更したが、設立当初の理念は引き継がれ、活動の中から得られた教  訓を、災害に関する調査活動の原則として定式化し、国内の様々な、  災害に関する専門家集団として、今日も、元気に活動している。   災害に関する調査の方法は様々であるが、国土研が提唱する「調  査活動の三原則」による調査が、もっとも国民の利益を保証すると  考えられる。三原則は住民主義、現地主義、総合主義である。    住民主義は、被災者の痛みを尊重し、被災者を取り巻く近隣住民  の体験や知恵に学び、災害原因と被害の実態を科学的に調査すると  ともに、二度と同様の被害を発生させない対策を打ち立てる事であ  る。   現地主義は、机上論ではなく、災害原因と被害実態の調査、及び  災害根絶の対策策定は、現地に赴き、現地から学ぶ事である。   総合主義は、あらゆる科学・技術者の総合調査・総合討論による  ものでなければならないことである。   災害対策は公共事業に負うところが多いが、国土研は「公共事業  の五原則」を提唱している。   以下は、調査の大まかな流れである。 1、地域、地区、地点の特定 2、原因の把握と分析 災害を誘起した最大要因の特定 複合誘因の分析と特定 3、災害の現況調査(文献、公表データ) 4、災害地の現地調査(予備調査、科学的調査団) 5、過去の類似災害の査読 6、調査結果の総合討議と因果関係論の特定 7、調査報告書の執筆分担 原稿検討 最終原稿の完成 出版 8、現地報告集会での公表

       「国土問題研究会」とは(略称:国土研)    JAPAN INSTITUTE OF LAND AND ENVIRONMENTAL STUDIES
国土問題研究会

 現在、災害・公害等、我々の住む国土のいたるところで環境破壊が激化
し、それは、われわれの日常の仕事や暮らしの基盤をも脅かしています。
地震・火山噴火・異常気象など自然的な原因による災害もありますが、水
害・地滑り・崖崩れ・地盤沈下・海岸浸食・落盤、ダム・道路・発電所・
コンビナート等の建設、土地構造や埋立工事、地下資源の利用など人為的
な行為に誘発されている災害が多くあります。つまり災害は社会現象であ
り、そのため、その犠牲になる住民と、災害発生や災害救助の責任者であ
る民間企業、地方自治体や国との間で多くのトラブルが引き起こされてい
ます。
 「国土問題研究会」は、従来の科学技術が「公共」という名目で開発を
進める側にだけ奉仕させられ、ともすれば開発の犠牲となる地域住民のた
めに活用されなかったことに対する反省にたって、昭和34年の死者5000名
を出した伊勢湾台風を契機として全国的に広がってきた災害救済と災害予
防運動からの要望もあって、昭和37年に設立された組織です。設立に当た
っては、元国民経済研究協会常務理事・故佐藤武夫、元参議院議員・元民
主団体災害対策会議常任幹事・故兼岩伝一氏らの尽力がありました。
 「国土問題研究会」の目指すところは、科学技術者の社会的責任を自覚
し、住民のための安全で住み良い地域づくり・国土づくりやそのための科
学技術のどうあるべきかを調査研究の中で具体的かつ実践的に明らかにし
ていくことにあります。 
 われわれ「国土問題研究会」のメンバーは、「各々の専門領域でのより
深い科学的な研究を基礎としながら広い分野の科学者、技術者、自治体労
働者等を結集して、住民の立場に立って、問題の起こっている現地に出か
け、住民とともに進める総合的調査研究の実践」が是非必要であると考え
ます。われわれは、このような「住民主義」「現地主義」「総合主義」の
調査『三原則』を基に、従来の「専門分担型」の調査研究から、「総合討
論型」の民主的調査研究の方向を指向し、さらに将来への科学的展望を含
めて調査研究を進めております。