<解説資料>
「動燃事故と日本の原子力政策を考える」全国抗議集会が掲げる緊急要求について
一九九七年七月二十四日茨城県那珂郡東海村「東海文化センター」
○メーンスローガン
*「動燃事故の第三者機関による徹底究明と原子力開発政策の抜本的見直し」
一九九七年三月の動燃・再処理工場の火災・爆発事故、九五年十二月の同・高速増殖炉原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ・火災事故の発生は、日本の原子力政策の根幹を揺るがしました。
それは、日本の原子力政策の基軸である「核燃料リサイクル」政策の再処理路線、高速増殖炉路線の推進のさなかに、しかも、それそれの中核施設で起きた事故だからです。しかも、世界が技術的困難、経済的困難から、世界がこの分野から撤退しているとき、日本だけが「原子力平和利用の世界の牽引国としての役割を果たしていく」と豪語して、世界でも異常な推進をはかっている途上で起きた事故だからです。
これらあいつぐ重大な事故については、公正かつ客観的な事故調査と原因の徹底的な究明をはじめとして、日本の原子力政策、開発体制、「安全審査」体制、行政などの総合的かつ抜本的な見直しが求められています。
<詳しくは市川富士夫氏、中蔦哲演氏の記念講演のレシメを参照ください>
○サブスローガン
<角田道生氏の特別報告のレジメを参照ください>
*「安全犠牲に目に見えるコストダウンの超大型炉=東海3・4号機の増設反対」
日本の原子力政策はアメリカの核戦略の一構成部分となっており、それが日本の原子力政策の一つの推進力ともなっています。日本の原子力産業のボロもうけの対象になっていることもあります。ところで、日本は原発の燃料となるウラン鉱石を世界の各国から買っていますが、ウラン鉱石のままでは燃料として使えません。天然ウランには、核分裂を起こすウラン235はO・七%しか含まれておらず、原発の燃料として使うには、これを三〜四%の低濃縮ウランにしなけれぱなりません。その濃縮役務のほとんどをアメリカに依存しています。アメリカの核戦略の維持にとって、ウラン濃縮工場の経常運転の磯保は不可欠の条件ですが、日本の原発のウラン濃縮役務はこの一環を構成しているのです。アメリカの濃縮役務を受けた低濃縮ウランは一日米原子力協定にもとづいて、アメリカの規制のもとにおかれます。
こうした背景のもとで、日本は原発の運転をすすめました。原発を運転すれば、使用済み燃料が出てきます。使用済み燃料が出れぱ出たで、再処理に回してきました。再処理すれば、プルトニウムと高レペル放射性廃棄物が出てきます。このような歴史的背景のもとで、政府、電力業界は、先の見通しもないままに原子力政策を推進し、それそれの段階で新たな問題にぶつかると、場当たり的な対処をしてきた結果、今日、プルトニウム過剰問題と高レベル放射性廃棄物間題という深刻な事態に直面しています。
日本のブルトニウム過剰事態にたいしては、外国から「日本は核武装するのではないのか」の懸念が高まっており、政府、電力業界は、過剰ブルトニウムを現状の原発で燃やしてしまうという、また、なんとも無謀で場当たり的な対処をしようとしています。既設の原発でウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料として、経済性も安全性も無視して、大々的に燃やそうというのが「プルサーマル計画」です。
総合エネルギー調査会原子力部会「中間報告」は、「プルサーマル計画」を「電気事業者の共通の課題」と位置づけ、「みんなで渡れぱ恐くない」式に「プルサーマル計画」をすすめようとしています。また、「核燃料サイクルの発展段階」として、「低濃縮ウラン燃料」の第一段階、「MOX燃料」の第二段階、「高速増殖炉」の第三段階があるとした上で、「MOX燃料」の第二段階が数十年つづくとし、「プルサール」が不可避の段階であることを強調しています。当面、「二〇〇〇年までには、三〜四墓程度でプルサーマルを開始」するとし、原子カ委員会も同じ決定をしています。九九年度中に東京電カの福島第一=3号機、関西電力の高浜4号機ではじめる予定にしており、翌年度には高浜3号機、日本原子力発電が二基にひろげたい意向です。炉心の三分の一相当分をMOX燃料を装荷するといいます。最終的には、フルMOX炉心の「大間」(
A-BWR,150万キロワット)の建設まで展望されています。原発へのプルトニウム利用で問題となるのは、労働者への放射線被曝の著しい増大です。それは周辺住民への原発の危険の増幅を知らせる「赤信号」です。大型炉心の核的不安定性をはじめ、炉心に超ウラン放射性物質が増加することによる事故時の影響のいっそうの深刻化、放射性廃棄物の処理・処分のいっそうの困難化、再処理の危険の増大などが指摘されます。
MOX燃料の製造、加工工場は現在、日本にはありませんが、これから建設するとしており、プルトニウムを工業規模で取り扱う危険ははかり知れません。なかでも問題なのは、MOX燃料自体の健全性とMOX燃料を装荷した運転の安全性について、データ・資料が公表されていないことです。国民が目にすることができるのは、ドイツやフランスなど外国でのMOX燃料利用の実績宣伝の文章程度です。日本のものでは、わずかに、日本原電・敦賀1号機(
PWR,35.7万キロワット)で八六年六月から九〇年二月までにMOX燃料二体、関電・美浜1号機(PWR,34万キロワット)で八八年三月から九一年十二月までMOX燃料四体の照射実験を行なっていますが、一部学会発表を除いて、データ・資料は明らかにされていません。その学会発表にしても、被覆管に影響はないなどの結論だけの記述ある程度です。実は、これは営業炉における実験ですが、これを実験とはいえないために、「少数体の実証計画」とごまかしています。通産省と科技庁は九七年二月、福島、新潟、福井の三県知事を通産省に招き、「ブルサーマル計画」実施への協力を要請しましたが、三県知事とも、「国民の合意は不十分」として、この要請を断わりました。動燃の再処理工場の火災。爆発事故は、自治体の「プルサーマル計画」への反発にいっそう拍車をかけています。
「目に見えるコストダウン」をめざした「第三次改良標準化計画」の世界初号機が、このほど、営業運転を開始した東京電力の改良沸騰水型軽水炉=柏崎刈羽6・7号機(
ABWR,135.6万キロワット)です。柏崎7号機の建設費は三千六百億円(一キロワット当たり二十六万五千四百八十六円)といわれます。中部電力・4号機(BWR,113.7万キロワット)が三千八百億円(一キロワット当たり三十二万四千二百十二円)といわれますから、建設費だけでも「一キロワット当たり」七九%への、つまり二一%のコストダウンとなっています。さらに、運転経費の面でも、設計段階で、定期検査の短縮など徹底した効率的運転をおりこみ、コストダウンを実現しつつあります。こうしたコストダウンは、安全を犠牲にして、新技術をもっぱらコストダウンのために動員して実現する以外にありません。例えば、これまで炉外にあった再循環ボンプが取り払われ、炉内に小型ホンプ十台が設置されるインターナルホンプ方式が採用されました。炉回りの再循環ホンプ系に配管は取り払われ、格納容器もいくぶん小型化され、定期検査も短縮される構造とされました。これまでは分厚い鋼製格納容器でしたが、新型では鉄筋コンクリート製格納容器となり、薄い内張りライナーとなりました。制御棒駆動システムも、出力調整運転が可能なように新技術が導入されました。
イターナルボンプの電源は、3・3・2・2台ずつの四系統の母線に別けられ、電源喪失による多台数停止を避ける設計となっています。しかし、電源喪失の場合、慣性回転力が小さく、燃料棒の冷却が追いつかない恐れがあり「炉心流量急減スクラム」が設定されています。炉心の冷却水の「流量変化幅大」を「流量検出器」で見ていますが、とくに低流量領域での検出はむずかしいとされ、実際にどこまで機能するのか?疑問が指摘されています。また、新型格納容器についても、政府、電力業界が、放射能は「五重の壁(ペレット、燃料棒被覆管、原子炉圧力容器、格納容器、原子炉建屋)」で閉じ込められるから「大丈夫」といってきた「多重防護」論の一角を自ら突き崩す結果になっています。さらに、出力調整運転を前提とすることは、原発は出力一定の「基底運転」が合っているとする、これまでの原発の取り扱いについて、大きな変更をもたらす可能性があることを意味しています。柏崎刈羽6・7号機は、これら新技術について、超大型営業炉でいきなり実験するようなものです。
東京電力の友野勝也副社長は、「とくにABWRは、設計の標準化、工期や定期検査の短縮、国際調達も含めた資材の競筆入札の導入などの手を打ち、建設単価を国際価額並みの一キロワット当たり二千ドル以下に抑制するのが目標だ」(「電気新聞」七月二十五日付)と語り、従来百万キロワット当たり四千億円の建設費を半値以下にするという驚くぺきコストダウンの目標を示しています。東京電力は、次号機について、柏崎刈羽6・7号機の「三〇%減」、日立は「四〇%減」をめざしており、友野発言とほぽ見合っています。
増設が予定される東海3・4機は、一五〇万キロワットの超大型であり、従来以上のコストダウンが予想されます。また、「第三次改良標準化計画」にもとづく改良加圧水型軽水炉(竜毫)については、日本原電が五月、福井県にたいして、敦賀3.4号機の増設の追加環境事前調査を申請しました。今後、大規模な原発の新増設が予定さていますが、その軸となるのはこうした超大型新型炉であり、原発の危険はいちだんと増幅されます。
阪神淡路大震災(九五年一月十七日)は、日本の原発の耐震安全性に改めて警告を発しました。神戸大学(神戸市六甲台)の地震計が兵庫県南部地震の岩盤上の地霞動を記録しましたが、この記録によれば、日本のすぺて
の原発の耐震設計が、兵庫県南部地震程度の地震動に耐えられないことが明らかにされました。高速道路、高架橋、高層ピルなど近代建築物・構造物等は、戦後、日本列島周辺の地震活動が静穏期に入ってから建設されましたが、兵庫県南部地震で甚大な被害を出し、その多くが「不合格」となりました。原発や石油コンピナートは阪神地域にはなかったために、その試練を免れましたが、原発がもし建てられていたとしたら、重大な事故を起こして、震災の様相を一変させていたかも知れません。
通産省・資源エネルギー庁は、地震後一カ月もたたない二月十一日付新聞各紙に、「原子力発電所の地震対策について」という広告を掲載し、つぎの六項目の「地震対策」を実施していることを紹介しました。
「1活断層の上には作らない」、「2最大の地震を考慮した設計」、「3岩盤上に直接建設」、「4大型コンピュータを用いた解析評価」、「5自動停止機能」、「6大型振動台による実証」
地震直後に、原発の「地震対策」を紹介すること自体はありうることでしょうが、驚くぺきことは、この「地震対策」を紹介することで、資源エネルギー庁は、事実上、原発の「耐震安全」宣言をしたことです。これを契機に、電力業界もいっせいに、「耐震安全」宣伝に乗り出しました。
「地震対策」の紹介だけで、日本の原発の耐震安全性が保障されることはありません。「地震対策」は耐震安全性の必要条件ではあっても、十分条件ではありません。六項目の「地震対策」が兵庫県南部地震をふまえてはたして有効であったかどうか、六項目だけで十分だったかどうかなとの検証が不可欠です。
ここでは、「1活断層の上には作らない」から「大丈夫」という言い分を見てみましょう。
日本列島の地震活動の観測について、「特定観測地域」、「観測強化地域」などが設定されていますが、日本の原発の大半はこうした地震常襲地帯に建てられています。日本は「活断層列島」といわれ、活断層の上に、または近くに建てられている原発は少なくありません。そもそも、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」や「解説」(以下「指針類」と略)では、活断層の上に原発を建ててもよいとしているのです。「指針類」が評価の対象としている活断層とは、五万年前から現在までに活動したことがある断層に限られ、それ以外の活断層は対象にされていないからです。「活断層の上には作らない」から「大丈夫」というのは、きわめて限られた話でしかありません。むしろ、「指針類」のこの点の見直しこそ、求められていることです。
中部電力の浜岡原発は、「プレート境界型地震」の想定東海地震の震源域の直上にあります。これを「活断層の上に作らない」から「大丈夫」といって見たところで、なんの説得力ももたないでしよう。「プレート境界型地震」は、活断層を震源とする「内陸型地震」の親玉地震に当たり、エネルギー規模はケタ遠いに大きいからです。
原子力安全委員会は、地震発生二日後の九五年一月十九日、「平成七年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会」(以下「検討会」と略)を設置し、いかにも、耐震安全性に取り組んでいるかのようなホーズを示しましたが、九月にまとめられた報告は、「兵庫県南部地震を踏まえても、我が国の原子力施設の耐震安全性を確保する上で墓本となる指針の妥当性は損なわれるものではない」という「耐震安全」宣言でした。
しかし、重大なことは、「検討会」の報告の内容と結論が矛盾していることです。「検討会」は、岩盤の地震動が記録された神戸大学の地点を、現行「指針類」の妥当性を検討する「評価地点」として選定しました。この地点に「神戸原発」を建てるとして、現行「指針類」にもとづき耐震設計を行なう地霞を選定して、実際に起きた兵庫県南部地震と比較検討して、「指針類」の妥当かどうかを判断したというのです。この結果、「神戸原発しにもっとも影響を与える地震として、「六甲山地南東麓から淡路島北部の複数の断層群の位置に予想されるM七・七五の地震が選定」され、「これは実際に発生した兵庫県南部地震(M七二一)を上回って」いるから、「指針類」は「妥当」と結論しました。しかし、これは、実は、とんでもない話なのです。マグニチュードだけを比べれぱ、「M七・七五」が「M七二一」を上回ることは、算術上、当然のことですが、問題は、これで、どうして「指針類」が「妥当」と判断されるのか、ということです。
地震の建物などへの影響を見る場合、「応答スペクトル」というものが使われます。機器・配管・設備・構造物などはそれぞれの固有周期をもっており、地震動とこれらの固有周期が合えぱ、共振現象を起こし、大きくゆさぶられ、破壊も大きくなります。この固有筒期の遠いによる機器・設備などの最大の揺れがどうなるかを表わすのが「応答スペクトル」です。「検討会」はこれも比較して、「想定される地震動の応答スベクトルは、神戸大学で観測された地震動の応答スペクトルに対して、全体に大きめの値となっていることが確認された。ただし長周期側において、部分的に神戸大学の記録が多少上回るところがある」として、基本的に問題はないとしています。しかし、ここで重要なことは、「部分的」とか、「多少」とかいってことを小さく見せようとしていますが、「神戸原発」の固有周期が長周期側の機器・設備などは兵庫県南部地震にさえ耐えられないことが明記されているという事実です。
そこで、「検討会」は、二つの言い訳をしています。一つは、神戸大学の兵庫県南部地震の岩盤上の記録は、「指針」でいう岩盤上の記録ではないので、表層地盤の増幅があったという言い訳です。しかし、神戸大学の地震計が設置されているトンネルは、六甲山の花岩帯に厚いコンクリートで巻き建てられたもので、これが全面的に「埋戻土」どをとの上に載っているとはとうてい考えられないことです。通産省、科技庁も、これまでの住民運動側との交渉で、「増幅するというデータ・資料を示せ」との要求に答えることはできませんでした。
二つは、原発の安全上重要な機器・設備などは原則として「剛構造」となっており、これらの固有周期は短周期側(0・2〜三才秒)に集中しているから「大丈夫」という言い訳です。しかし、これも住民運動側から、「それをいうなら、原発の機器、設備などの固有周期をすぺて公表甘よ」、。「短周期のものでも地震の衝撃で壌れ、長周期になる場合を想定していないのか?」の要求や質間に、「企業の財産権についての守秘義務があるから固有局期は公表できない」などと、理由にならない理由で回答を拒否しています。「検討会」の報告内容は、その結論とは遠てて、「針針類」が妥当でない可能性を示唆しているのです。
さらに、重要なことは、「検討会」は試みていませんが、兵庫県南部地震の応答スペクトルと現実に「指針類」にもとづいて耐震設計された原発の応答スペクトルを比較してみると、日本の原発でもっとも大きな地震に備えている浜岡3・4号機をはじめとして、すぺての原発で、兵庫県南部地震の応答スペクトルが大きく上回っている事実てす。
このことは、「指針類」で耐震設計上、従来使われている経験式やモデルの「標準的手法」などに、学問的裏付を欠く疑惑があることが端的に示されています。本来、「検討会」が「兵庫県南部地震を踏まえて」検討すぺきことは、まさにこの点にあったはずですが、「検討会」はこれを回避しています。
ところで、「検討会」が「指針類」の「妥当」報告をしても、「指針類」策定以前の原発についての「耐震安全」宣言にはなりません。そこで、ご丁寧にも、資源エネルギー庁は同じ九月、「指針策定以前の原子力発電所の耐震安全一の報告をまとめ、発表しました。
東海−号機(黒鉛減速炭酸ガス冷却型
=GCR,16.6万キロワット)は、日本最初の商業用原発ですが、これが今日の原発の地震対策の無視の歴史の出発点となりました。技術的欠陥からフル出力で運転されたことはなく、今日、炉材料の経年劣化も著しく、「廃炉」宣言を余儀なくされています。原子炉建屋は、現行「指針類」では、第三紀層の「堅い岩盤の上に直接固定」されるとされてますが、これは岩着ではなく、ケーソン(箱形の鉄筋コンクリートの基礎)の上に載せられています。核燃料の周辺に積み上げられた黒鉛プロックは、耐震上の工夫がされているとはいうものの、どこまで実効性あるか疑問複されています。ところで、「指針類」によれぱ、原発の耐震設計は、その地点で、@将来起こりうる最強の地震−「設計用最強地震」の基準地震動
S1に耐えられること、Aおよそ現実的でない考えられる限界的な地震−「設計用限界地震」の基準地震動S2に耐えられること、とされています。機器や設備などに、これらの基準地震動S1,S2を入力して応答解析を行なって応答値を出し、これが許容値におさまっているかどうかで、耐震安全性を判定します。これは動的地震力にもとづく応答解析といわれます。一方、本来、動的である地震動について、水平方向およぴ鉛直方向に一定の力が作用すると置き換えて耐震設計を行なうことは、静的地震力の考え方にもとづくものです。通産省資料によれぱ、東海1号機の基準地震動
S1,S2として、いずれも「588ガル」と、なぜか大きそうに見える同じ数値が並んでいます。あたかも、動的地震力の考え方で耐震設計が行なわれたかのように見せていますが、当時、そうした考え方はありませんでした。これは、静的地震力の考え方にもとづくもので、一般建築物の耐震基準の三倍(重力加速度980ガル×0.6=588)の余裕をとったにすぎないものです。東海1号機以降の原発は、すぺてアメリカから導入された沸騰水型軽水炉(
BWR)およぴ加圧水型軽水炉(PWR)ですが、「指針類」策定以前の二十八基の「耐震安全」の根拠として、報告は各原発について、現行「指針類」にもとづく基準地震動S1,S2を主要機器等に入力して応答解析を行ない、余裕を礎認したどしています。しかし、これも、基準地震動昇S1,S2の作成に使われる「標準的手法」そのものこそ、見直しが迫られているものであって、その根拠や計算過程を示さないままに、一方的に「お上のいうことを信じなさい」式に結論の押しつけても、だれも信じることはできないでしょう。また、主要機器等について応答解析したといいますが、高々六個所にすぎず、原発システム全体について見たものでもありません。いずれにしろ、これらの数値は係数の入れ方しだいでどのようにも動かせるものです。それにしても、古い原発がみんなそろって合格とは不思議な話です。日本列島周辺の地震活動は本格的な活動期に入ったといわれます。日本の原発の大半は、地震常襲地帯に建てられています。しかも、日本のすべての原発が兵庫県南部地震程度にさえ耐えられないことが明らかにされています。加えて、当の政府、電力業界は、この事実に目をつぷり、「耐震安全」宣伝にしか関心を示さず、地震対策をサポっています。
いまこそ、日本の原発について、対策をとらせることは急務です。
耐震安全性をはじめとする総点検を実施させ、それにもとづく必要な措置と
現在、日本列島各地で五十二基の原発の運転が強行されています。炉心には、核分裂反応によって、大量の核分裂生成物質(死の灰など)が蓄積されています。もともと、現状の原発は、構造上、この大量の放射性物質を環境に放出する危険性を排除できません。
国際原子力機関(
IAEA)の国際安全諮問委員会(INSAG)は八八年三月、米・旧ソ連の二大原発事故の教訓をまとめた「原子力発電所のための基本安全原則」の実施について、各国に勧告しましたが、日本はこの国際的提起にさえ反対し、国内での実施をかたくなに拒否してきました。世論におされて、電力業界も九四年三月、各原発についての過酷事故(シビアアクシデント)対策としての「アクシデントマネジメント検討報告書」を提出しましたが、それは原子炉対策だけで住民対策はありません。しかも、政府の公的な規制ではなく、業界まかせのものでしかありません。「防災対策」は、災害対策基本法にもとづく「地域防災計画」のなかで策定されていますが、「絵に描いたモチ」てしかなく、事故時に実効性は期待できない状況です。それというのも、天災・一般災害並みの取り扱いが強調され、人災としての、目に見えない放射能を対象とする原子力災害対策として、独自に取り扱うという基本的な構えがないからです。
「防災対策」では、「原子力防災において特に考慮すぺき核種は希ガス(クリプトン、キセノン)及び揮発性核種(よう素)」として、プルトニウム、ストロンチウム、セシウムなどの核分裂生成物質などの環境への放出ははじめから念頭にありません。緊急時医療も、一般的傷病の分類などに力点がおかれ、放射性物質による汚染、被曝にたいする医療が墓本に座っていません。「防災対策を重点的に充実すぺき地域の範囲」も、「原子力発電
所等を中心として半径約8〜10km」としていますが、過酷事故時の放射性物質の環境への放出がこの範囲でおさまることはありえず、二重にも三重にも震小化されています。想定東海地震にたいしては、大規模地震対策特別措置法(七八年)をつくって、「防災対策」に取り組んでいますが、浜岡原発がこの東海地震の震源域の直上にあるにもかかわらず、この「防災対策」のなかに「原発編」はありません。静岡県は、国の「安全審査」で安全は保障されるとか、原発は地霞がくれば自動停止するとか、いっていますが、いずれも根拠のないことです。浜岡3・4号機の敷地地盤についての「安全審査」に重大な疑惑があることは、住民運動側がこれまで「公開質問状」などで明らかにしてきたことですが、中部電力はなんら回答さえできないでいます。また、原発が自動停止するかどうかも保障の限りではありませんが、自動停止したからといって安全なわけではありません。炉心に蓄積された核分裂生成物質が放出する崩壊熱を除去する機器冷却系の海水導管が地震で機能しなけれぱ、米スリーマイル島原発事故タイプの過酷事故とならない保障はないのです。まして、浜岡1・2号機は東海地震の「安全審査」さえ経ていないのですから、静岡県の東海地震時の浜岡原発の「安全」宣言ほど無責任なものはないでしょう。
旧ソ連チェルノプイリ原発事故時に、当時の乳幼児たちは、ヨウ素剤の配備がなかったために、放射性ヨウ素
131を吸い込み、事故後十年を経過して、甲状腺異常、甲状腺ガンが異常に多発しています。この悲劇を日本で繰り返さないために、ヨウ素剤を配備させる運動も大きく広がっています。新潟県小国町が九七年十二月、全国で初めて全戸常傭をきめました。「防災対策」策定の義務がないとされる自治体で、全住民を対象にヨウ素剤配備をきめたのは、この小国町を含め六市町になりました。このほか一部配備は二市あります。東京都でも、対都区市交渉がつづけられています。また、「防災対策」策定地域自治体では、事故時に服用が可能なように分散配備、全戸常備の運動がすすめられています。さらには、ヨウ素剤の製剤についても、現状の丸薬ではなく、スイスのように長期間の保管ができる製剤に改めよとの要求が出されています。現状の「防災対策」の拡充・強化と合わせて、原子力災害対策特別措置法の制定など原子力災害対策の独自の確立を要求する運動の前進が求められます。
*「風評被害の補償を」(略)
▽天然ウラン=(核分裂性ウラン235−0.七%)十(非核分裂ウラン238−九九.三%)
▽軽水炉=現在使われている原発。ウラン235が三〜四%の低濃縮ウランを燃料に使う(天然ウランのほとんどが捨てられる超浪費型炉)。軽水(普通の水)が高速中性子の減速材として使われるとともに、冷却材として使われる
▽核燃料の燃焼前後の組成の変化
*低濃縮ウラン燃料の場合
使用前=(ウラン235−三%)十(ウラン238−九七%)
使用後=(核分裂生成物質さん%)十(プルトニウム−一部)
*高燃焼度燃料の場合
使用前=(ウラン富235−四%)十(ウラン238−九六%)
使用後=(核分裂生成物質−五%)十(プルトニウム−一%)
*MOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料の場合
使用前=(プルトニウム−七%)十(ウラン238−九三%)使用後=(核分裂生成物質−五%)十(プルトニウム−五%)十(ウラン238−一%とウラン238−九五%)
十(ウラン235−一%とウラン238−九三%)
十(ウラン238−九〇%)
▽再処理
=使用済み燃料の組成である核分裂生成物質、プルトニウム、ウランを分離し、抽出すること。再処理から出る核分裂生成物質を高レベル放射性廃棄物という。原発は技術的未薩立であるが、設計思想上は、放射能の閉じ込めを前提としているのにたいして、再処理は、設計上思想上、放射能の開放を前提にせざるをえず、原発技術以上に再処理技術は未確立であり、危険は格段に高い
▽高速増殖炉=炉心でプルトニウムを燃やし、周囲に配したプランケツト燃料(劣化ウラン)からプルトニウムを生成する。燃やした以上のプルトニウムが生成されることから増殖という。プルトニウムの核分裂反応、プルトニウム生成反応に高速中性子が使われる。天然ウランの非核分裂性ウラン238の九九・三%を仮に全部、ブルトニウムに変えて使えるとすれば、計算上は、天然ウランを百数十倍(99.3/0.7=141.85…)も有効に使えることになり、天然ウランの埋蔵量五十年分とすれぱ、いっきょに七千年分にもなる。「夢の原子炉」といわれるゆえんである。政府、電力業界は、炉内で生成されるプルトニウムを「準国産エネルギー」と称して、天然ウランを二〜三千年分に使えるとして、高速増殖路線を日本の原子力政策の基軸にしている