原発の危険に反対する運動

目次

原発に対する「警鐘」の年

兵庫県南部地震と原発問題

地震の活動期に直面する原発

「もんじゅ」事故が示したもの

「核燃料リサイクル」政策の危険

プルトニウムは原発で燃やせ!

札束攻勢による新増設ラッシュ/P>

原発の危険に対する運動

 

原発にたいする「警鐘の年」

 日本の原発にとって、1995年はで「警鐘の年」あった。1月の兵庫県南部地震は、その備えの欠如から阪神・淡路大震災となり、甚大な被害をもたらした。これを契機に「日本の原発は大丈夫か?」との国民の不安の声が改めてひろかっている。12月の動力炉・核燃料開発事業団(動燃)の高速増殖炉「もんしゅ」の2次系冷却材ナトりウム漏れ・火災事故は、「核燃料リサイクル」政策の危険を事実で示すことになり、日本の原発政策の根幹をゆさぶっている。

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兵庫県南部地震と原発問題

日本原発の五重の潜在的危険

 日本列島では、現在、「49基(4119.1万kw)」の原発が北海道、宮域、福島、茨城、静岡、新潟、石川、福井、島根、愛媛、佐賀、鹿児島など各地で運転されている。日本はアメリカ、フランスにつぐ世界第3位の「原発大国」である。

 ところで、これら原発は、初の営業炉・東海1号機(黒鉛減速ガス冷却炉=GCR)を除けば、軽水炉とよばれる原発である。米艦船の動力用に開発され、発電用に転用された「軍事の落とし子」である。

 透水炉には、沸騰水型軽水炉(BWR)、一加圧水型軽水炉(PWR)の二つの型かあるが、いずれも運転すれば、燃料棒内に核分裂生成物質(死の灰)が蓄積される一方、この核分裂生成物質が出す崩壊熱を冷却できなけば、燃料棒が溶け出し、水と反応して水蒸気爆発・水素爆発等を起こして、大量の放躰性物質を環境へ放出する危険が避けられない。冷却材喪失による過酷事故(シピアアクシデント)である。このタイフの最大の事故として79年、米スり一マイル島原発事故が起きた。

 いま一つ懸念されるタイプの過酷事故は、核分裂反応が暴走する反応度事故である。このタイプの最大の事故として86年、旧ソ連チェルノブイリ原発事故が起きた。

日本の原発は、こうした軽水炉の危険(技術上)に加えて、日本固有の危険をかかえている。それは世界でも有数の地震常襲地帯に立地される危険(地質上)、人口過密地帯に近接・集中立地される危険(地理上)、安全軽視・開発優先の「安全審査」体制のもとで立地される危険(行政上)、非科学的・営利優先の運転がおこなわれる危険(営業上)である百五重の潜在的危険である。

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地震の活動期に直面する原発

なかでも、地質上の危険は、兵庫県南部地霞を契機に著しく増幅された。「地震と原発」問題への国民の関心はかつてなく高まっている。

 日本列島は、4枚のプレートが押し合っているところに位置(図3−12−10)し、地震はそれらプレート境界沿いに発生する「プレート型地震」と、内陸部の活断層が動く「内陸型地震」の二つにわけられる。それらの地震は、現在、本格的な活動期を迎えている。

 日本の原発の大半は、「プレート型地震」の巨大地震である東海地震の震源域の真上に中部電力・浜岡原発が建てられていることに象徴されるように、地震の常襲地帯に建てられている。しかも、緊急時の対策など基本的な備えもなく、運転が強行されている現在、日本の原発は、活動期を迎える地震の脅威にさらされることになった。

 兵庫県南部地震の直後、通産省・資源エネルギー庁は、その地震の教訓もまだつまぴらかにされていない段階で、はやくも新聞広告で「耐震安全」宣言(95.2.12)をおこなった。これを皮切りに、政府、電力会社は、耐震対策には手もつけないままに、いっせいに原発の「耐震安全」宣伝に乗り出した。

 原子力安全委員会の「平成7年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会」は95年9月、現行の耐震設計指針類を「妥当」とする報告書を発表した。また通産省・資源エネルギー庁は、耐震設計指針筑定以前に建てられた原発について、「耐震安全」とする報告書をまとめた。いずれも、データ・資料による裏づけを示さないままに、「安全」結論だけを国民に押しつけている。

 神戸大学(神戸市六甲台)の地震計には兵庫県南部地震の岩盤上の地震動が記録され、兵庫県南部地震が日本の原発の耐震設計の信頼性に重大な疑惑を投げかけていることを示した。報告書は、この検討もおこなわず、また耐震設計指針類のあれこれの評価法について、兵庫県南部地震を踏まえた検証作業さえおこなっていない。「兵庫県南部地霞を踏まえた」検討とはとてもいいがたい。

 これらの報告書は、日本の原発の危険な実態を覆い隠し、耐震対策のサボタージュの口実とされている。

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日本列島の「総合実験場」

「もんじゅ」事故が示したもの

化日本では、新型の原発の実験炉として、動燃の新型転換炉(ATR)原型煩「ふげん」(16.5万`h。敦賀市)が運転され、高速増殖炉(FBR)原型炉「もんじゅ)」(28万kw。敦賀市)が試運転されていた。

 「もんじゅ」は、性能試験中であった95年12月8日夜、格納容器から突き出た2次系冷却材配管部分からのナトリウム漏れ・火災という重大事故を起こした。この種の事故としては世界最大級である。

 高速増殖炉は、中央にプルトニウム燃料を入れ、周辺にブランケット燃料(ウラン238)を配し、核分裂で放出される高速の中性子を、プルトニウム燃料の核分裂とプランケット燃料のプルトニウム生成に利用して燃やす、プルトニウム以上のプルトニウムを生成する新型の原子炉である。

 政府、電力会社は、新たに生成されるプルトニウムを「準国産エネルギー」、高速増殖炉を「夢の原子炉」などといい、高速増殖炉路線を日本の原発政策の軸に位置づけてきた。

 高速中性子を減速しないために、冷却材に金属テトりウム(融点97.8度、沸点882.9度)が使われる。金属ナトリウムは、空気中の酸素や水分と激しく反応する。金属テトりウムは酸素と反応してナトリウム火災を、水と反応して水素を発生し、水素爆発を起こす。

 高速増殖炉は、炉心の熱を伝える1次冷却系、中間熱交換器でその熱を蒸気発生器に伝える2次冷却系、蒸気発生器から蒸気をターピンに伝える3次冷却系がある。1次系、2次系の冷却材に金属ナトリウム、3次系に水が使われる。この溝遺から、テトりウムと水の反応による爆発、ナトリウム火災などの危険は避けられない。また、核分裂反応の暴走である反応度事故の危険が指摘される。

 高速増殖炉は、ドイツ、アメリカ、イギリスなどは開発計画から撤退、フランスも実用は断念している。

 日本では、政府、電力会社側から見ても、高速増殖炉の使用溝み核燃料の再処理の見通しもないままに、また、たび重なる重大な設計ミス、燃料製造ミスにもかかわらず、「もんじゅ」には、当初見積りの約7倍を超える7000億円が投じられ、94年4月、「もんじゅ」の試運転を強行したうえでの今回の事故である。

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「核燃料リサイクル」政策の危険

 ところで、この高速増殖炉路線は、行詰りをきたしていたのであるが、日本では、プルトニウム過剰事態への対応策としての「核燃料りサイクル」政策の一環として再生された。

 「核燃料りサイクル」は、新たに登場した細川連立政権か、従来の自民党の原発政策に加えて新たに打ち出したもの。これが羽田連立政権、村山連立政権にそっくり引き継がれた。原発問題でも、新旧連立政権か自民党政治以上に危険な道に踏み込んだといわれるゆえんである。

 現状の原発を運転すれぱ、使用済み核燃料が出てくる。使用済み燃料が出れば、再処理をする。再処理をすれば、プルトニウムと高レベル放射性廃棄物か出てくるのは当たり前である。先の見通しもないままに、場当たり的に原発政策を推進してきた結果、日本は深刻なプルトニウム過剰事態と高レベル放射性廃棄物問題に直面している。

 外国からは、日本の核武装化の懸念が表明されている。原子力委員会は94年6月、第7次「原子力の研究、開発及ぴ利用に関する長期計画」(以下「良計」に略)を発表した。「長計」はプルトニウム過剰事態への対応の基本方針として、「核燃料りサイクル」政策の展開と「過剰ブノレトニウムをもたない」との原則の堅持を掲げるとともに、「1994〜90年代末」「200〜2010年」のプルトニウム需給見通し(表3−12−3)を示した。

 それによれば、94年から2010年までの国内回収プルトニウム量(海外再処理からすでに返還されたものを合わせ)は「約39〜49d」、海外再処理からの回収量「約30d」が見込まれている。この海外回収量「約30d」は過小に過ぎ、少なくとも「約40−45d」と見られる。

 このうち、需要見通しがあるとされるのは、国内回収分の「約39〜49d」だけ。その内訳は「軽水炉MOX燃料利用」が「約20〜25d」と大半を占め、高遠増殖炉・新型転換炉等が「約19d〜24d」となっている。海外回収分は「基本的に海外でMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料加工」としているだけで、需要見通しはなく、まるごと過剰となっている。「過剰プルトニウムをもたない」原則の堅持といってみても、はじめから成っ立っていない。

 「良計」は、こうして、@原発へのプルトニウムの大々的利用、A国内大型再処理工場(青森県六ヶ所村)の建設、B高速増殖炉路線の推進などを柱とする「核燃料リサイクル」政策を再確認しているのである。

 しかし、「核燃料リサイクク」政策は、プルトニウム過剰対策どころか、プルトニウム過剰の拡大再生産とならざるをえない。六ヶ所再処理工場建設は、プルトニウム過剰に拍車をかけるものであり、また高速増殖炉は本来、プルトニウム過剰の一大要因となるもの。さらに、新型転換炉実証炉「大間」(60.6万kw。青森県大間町)は「良計」発表後に早々に計画が廃棄され、その分のプルトニウム需要はご破算となった。

 また、プルトニウム過剰事態が生じるということは、同時に、それに数倍する高レベル放射性廃棄物が排出されることを意味している。「良計」はバックエンド対策として、高レペノレ放射性廃棄物の処理処分方針(「ガラス固化」→「30年〜50年間の一時冷却貯蔵」→「地層処分」)の実施を打ち出している。

 プルトニウムはウランと比して、1g当たりの放射能の強さは1万〜1億倍以上も大きいうえに、そもそも再処理、高速増殖炉、高レベル放射性廃棄物処理・処分の技術は、原発技術以上に未確立である。「核燃料りサイクル」政策等を推進することは、こうしたものを施設化し、原発から出るもっとも危険な放射能を直接扱う段階に踏み込むことを意味する。原発の危険を超える、取り返しのつかない危険を冒すことになる。

日本は「原子力平和利用の牽引国としての役割を果たす」と豪語して、日本列島を原発の「総合実験場」と化す道を突きすすんでいる。「もんじゅ」事故は、これら日本列島の原発の「総合実験場」化の危険を典型的に示す事故であり、日本の原発推進施策の根幹をなす「核燃料りサイクル」政策の抜本的見直しを追っている。

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プルトニウムは原発で燃やせ!

「長針」のプルトニウム過剰対策とは、けっきょく、「毒を食らわば皿まで」式に、安全性、経済性を無視して、過剰プルトニウムはとにかく既設原発で燃やせるだけ燃やせ!ということである。しかも、MOX燃料の安全性を裏づけるデータ・資料は公表されていない。加えて、MOX燃料はウラン燃料の数倍のコストかかかる。

 その「利用計画」は、90年代後半から東電・福島原発、同・棺崎刈羽原発、関電・高浜原発、中電・浜岡原発、原電・敦賀原発の四社の加圧水型軽水炉、沸騰水型軽水炉で始まるとされているが、営業炉を使っての実験を意味している。

 新型転換炉実証炉「大間」の全炉心MOX型の改良沸騰本型(A−BWR,150万kw)への変更もより多くのプルトニウムを燃やすためである。

 軽水炉用MOX燃料の加工施設は日本にはない。「2000年過ぎには年間100d程度の模索の国内MOX加工の事業化をはかる」としているか、プルトニウムを「`」「d」単位の工業規模で扱うのは初めてのことであり、製造・加工工程の取り扱いの危険は格段に大きい。プルトニウム利用の危険が追りつつある。

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大規模な新増設計画

札束攻勢による新増設ラッシュ

 政府は電源3法にもとづく各種交付金に93年度から

割増の「特別単価」を設け、札束攻勢によって原発の大規漠な新増設を推進している。新規立地として、大間一原発(青森県大間町)、東通原発(青森県東通村。東京電力と東北電力の2地点)、浪江・小高原発(福島県浪江・小高町)、老原発(新潟県巻町)、芦浜原発(三重県南島町)、珠洲原発(石川県珠洲市。関西電力・北陸電力と中部電力・北陸電力の2地点)、久美浜原発(京都府久美浜町)、日置川原発(和歌山県日置川町)、小浦原発(和歌山県日高町)、上関原発(山口県上関町)、萩原発(山口県萩市)、窪川原発(高知県窪川町)、串間原発(宮崎県串間市)などがある。

 また、増設として、女川3号機(宮域)、第1福島=7・8号機(福爵)、東海3・4号機(茨城)、柏崎刈羽8・9号機(新潟)、浜岡5・6・7号機(静岡)、敦賀3・4号機(福井)、志賀2号機(石川)、伊方4号機(愛媛)、玄海4号機(佐賀)、川内3・4号機(鹿児島)などがある。

 世界が原発見直しの動向にあるのとは対照的に、日本の原発の異常な突出ぷりがここにも示されている。これにたいして、芦浜原発、老原発などで立地反対・増設反対運動が町民、県民を広く結集してすすめられている。九州電力は崇間原発の凍結を発表したが、住民運動は解体せず、運動をつづけている。

 しかも、これら新増設の原発の主軸は、新技術をもっぱら「目に見えるコストダウン」に利用した超大型の改良沸騰水型軽水炉(A−BWR。135〜150万kw級)、改良加圧水型軽水炉(A−PWR。135万kw級)である。電力会社は「30%」、メーカーの日立などは「40%」のコストダウンを目標にしている。

 改良梯騰水型軽水炉の初号機として、現在柏崎刈羽6・7号(新潟)が建設されており、150万kw級として、大間(青森)、東海3・4号機(茨城)、135万kw級として、戸浜(三重)、第1福島7・8号機(福島)、柏崎刈羽8.9号機(新潟)・浜岡・5・6・7号機が加圧水型軽水炉として、135万kw級の敦賀3・4号機(福井)か計画されている。

 新技術の安全性を裏づけるデータ・資料は公表されておらず、しかも、柏崎刈羽6・7号機の建設の進行とともに、この超大型新型炉の高稼動の新枝術の不安定さが問題となり、安全対策が新たに提起される事態となっている。

 これまでの新増設は、技術的未確立の事情に変わりはないものの、相対的には古い原発より一定改善されていたが、今後、新増設される超大型の改良沸騰水型軽水炉、改良加圧水型軽水炉は、当初の予想を超える欠陥原子炉として登場しようとしている。

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住民運動の役割の重要性

原発の危険に反対する運動

 日本の原発の危険が重大化している情勢にあって、辛うして大事故への転化を抑え、未然防止の力となってきたのは、住民運動の存在であった。住民監視の役割はいっそう重要となっている。

 原発に不安・心配を抱く国民は、90年の総理府の世論調査でも、「90.2%」にのぽっており、95年の兵庫県南部地震と「もんじゅ」事故を経験して、その数はさらに増加しているであろう。

 こうした原発へ不安・心配を抱く国民を、原発の危険に反対するさまざまな緊急要求にもとづく共同行動に結集して、無責任な政府、電力会社の原発推進政策をくいとめ、国民の安全が保障される方向での根本的転換をかちとることは、原発問題をめぐる国民的急務である。

 原発問題住民運動全国連絡センター(87年12月結成)は、原発の現にあるさまざまな危険を直視し、これらの危険に反対するという点で共同する運動、統一戦線的な運動をすすめている。

 同センターは、現在、

@既設原発の危険に反対する緊急要求として

*兵庫県南部地雷の教訓にもとづく既設原発の耐震点検を含む総点検の実施

*既設原発の老朽化と過酷な運転の実態と対策、責任の追及

*事故原因の徹底した究明と対策の確立

*原子力災害対策の独自の取り扱いと現行防災対策の抜本的改善。ヨウ素剤の常備

A「核燃料リサイクル」政策の危険に反対する緊急要求として

*「もんじゅ」の運転中止、事故原因の徹底究明

*「核燃料リサイクノレ」政策の抜本的再検討

−高速増舷炉路線の抜本的見直し

−再処理工場の建設反対

−高レベル廃棄物の処理・処分に反対

−軽水炉へのMOX燃料利用反対

B新増設の危険に反対する緊急要求として

*大規慎な新増設に反対

*安全犠牲の「目に見えるコストダウン」を追求した超大型新型炉に反対

などを示し、これらの緊急要求にもとづく共同行動の積極的展開を呼びかけている。

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