第4節 変動する騒音の評価

 測定対象の騒音レベルが変動せず一定の値を示していれば,騒音計の指示値を1回読みとるだけで騒音レベルを決めることができる。しかし,道路騒音などのように騒音レベルが時間的に変動する場合にはどのようにして騒音レベルを測定すればよいのだろうか。

 JISZ8731「騒音レベル測定方法」(1983年4月改訂)では騒音の変動のしかたの違いにより,騒音レベルの求め方が表1-1のように決められている。

表1-1 騒音レベル測定方法(JIS Z 8731)

騒音の種類 測定方法
1.定常騒音 騒音計の指示値を読みとる。
2.変動騒音 等価騒音レベル又は、時間率騒音レベル(L5、L50など)を求める。
3.間欠騒音 (1)特定の間欠騒音 方法(a) 騒音計の動特性はFASTを用いて、騒音の発生毎に指示値の最大値を読み取り、 最大値ほぼ一定の場合 数回の平均値で表示
最大値が一定とみなせない 多数回の測定を行い、エネルギー平均値、L5などを代表値とする。
方法(b) 単発騒音暴露レベルから等価騒音レベルを求める。
(2)間欠騒音を含む環境騒音 特に定めがある場合を除き、等価騒音レベルを求める。
4.衝撃騒音 (1)特定の分離衝撃騒音 騒音計の動特性はFASTを用いて、騒音の発生ごとに指示値の最大値を読み取り、 最大値ほぼ一定の場合 数回の平均値で表示
最大値が一定とみなせない場合 多数回の測定を行い、エネルギー平均値、L5などを代表値とする。
(2)特定の準定常衝撃騒音 騒音計の速い動特性(FAST)による指示値の最大値を読みとる。
(3)衝突騒音を含む環境騒音 特に定めがある場合を除き、等価騒音レベルを求める。

 改訂前のJISZ8731においては,変動騒音の測定値としては,中央値(L50)および90%レンジ上端値(L5),同下端値(L95)により表示がなされることが規定されていた。そして,この旧JISに基づいて,道路交通騒音の環境基準はじめ各種の法規制なども中央値で基準が決められている。このため,新JISは,騒音評価量として等価騒音レベルが中心におかれているが,現在の法令に規定された項目が残るよう配慮が行なわれている。たとえば,変動騒音の場合には,等価騒音レベルと時間率騒音レベルが並列におかれており,また,間欠騒音あるいは衝撃騒音を含む環境騒音の測定方法において,「特に定めがある場合を除き」という表現があるのはこのためである。

図1-4 騒音レベル測定用紙の例

図1-5 累積度数曲線の例

 中央値と等価騒音レベルの求め方及び特徴について以下に述べる。旧JISでは,道路騒音のように「不規則かつ大幅に変動するような場合」には,「ある任意の時刻から始めて,ある時間ごと(たとえば5秒ごと)に指示値を読みとり,測定値がじゅうぶんな数(たとえば50個)になるまで続ける。得られた測定値の中央値をもってこの場合の騒音レベルを表示する。変動の幅は90%レンジの下端および上端で表わす。」ことになっている。具体的には,読みとり値を図1-4のような用紙に記録し,これを集計して図1-5のように累積度数曲線を描く。この曲線が50%を切る点の騒音レベルが中央値である。同様に5%を切る点が90%レンジ下端,95%を切る点が90%レンジ上端である。

 なお,中央値の主観量との対応は必らずしもよいとはいえないといわれている。たとえば交通量の多い高速道路のようなものの騒音評価にはよいが,深夜交通量の少ないときに大型トラックが通過するような場合,主観的には非常にうるさいにもかかわらず,中央値には反映されず,過小評価になることがある。

 例えば50回法を用いる場合,おおざっぱに言えば中央値とは大きい方から25番目の値であり,大きい側24個の測定値にどれほど大きな値が含まれているかは,全く中央値には反映しないからである。

*用語の意味

等価騒音レベル LAeq,T 騒音レベルが時間と共に変化する場合,測定時間内でこれと等しい平均2乗音圧を与える連続定常音の騒音レベル。混同のおそれがない場合,記号はLAeq又はLeqで表示してもよい。(本文参照)

時間率騒音レベル Lx 騒音レベルがあるレベル以上である時間が実測時間のx%を占める場合,そのレベルをxパーセント時間率騒音レベルという。L50は中央値,L5は90%レンジ上端値,L95は90%レンジ下端値などと言う。(本文参照)

単発騒音暴露レベル LAE 単発的に発生する騒音の一回の発生ごとのエネルギー(A特性)と等しいエネルギーをもつ継続時間1秒の定常音の騒音レベル。

間欠騒音 間欠的に発生し,継続時間が数秒以上の騒音。

衝撃騒音 一つの事象の継続時間が極めて短い騒音。

分離衝撃騒音 個々の事象が独立に分離できる衝撃騒音。

準定常衝撃騒音 ほぼ一定のレベルの個々の事象が,極めて短い時間間隔で繰り返して発生する衝撃騒音。

図1-6 等価騒音レベルの概念

 

 新JISで採用されている等価騒音レベルは,聴感補正(A特性)した上での騒音のエネルギーを時間的に平均化したレリルとも言えるもので(図1-6参照),次式で定義される。

……(3)

ここに、T:時刻t1に始まり時刻t2に終わる実測時間

     pA(t):A特性音圧

     p0:基準音圧(20μPa)

一定時間ごとに読みとった騒音レベルの値から等価騒音レベルを計算する場合には,次式による。

……(4)

ここに,LA1,LA2 , …,LAn:騒音レベルの測定値  n:測定値の総数

 この等価騒音レベルは,騒音の評価指標として次のような利点を持つといわれている。

 @主観量との対応がよい。

 A自動車騒音あるいは衝撃音など多種の音源に適用できる。

 Bエネルギー平均値に基づいているため,物理的に加算性をもち,予測が容易である。

 C周波数分析を必要としないため、簡便に測定できる。

 D衝撃音のような持続時間の短い(1秒以下)音から、長時間(1日,1ケ月,1年)の騒音まで適用できる。

 ISO(国際規準化機構)によって、騒音評価の指標として等価騒音レベルを採用した国際基準(ISO 1966/1)(案)が作成され、すでに多くめ国で、環境騒音の評価指標として等価騒音レベルか使用されている。8本でも近くこの等価騒音レダルに統一されると思われる。

(注)低周波音測定に関してはJIS規格はないが、騒音に準じて考えることができよう。高架橋から発生する低周波音は上の表の2に該当すると思われるが、大型トラックが通過したときの非常に高いレベルが問題であると考える場合には3の(1)に該当すると考えて、ピーク値数個の平均値で表示することになろう。