第4節 住民の苦痛と公団の対応

 昭和47年12月,西名阪自動車道の4車線が自動車の走行に供用されて以来,頭痛,目まい,吐き気,イライラ,不眠,耳鳴り,胸へ
の圧迫感,鼻出血等の苦痛が住民から訴えられるようになった。

 これらの苦痛は香芝高架橋に近づけばひどくなり,離れると弱くなるという体験が重なるなかで,高架橋の存在が問題になり始めた。

 そして,ついに昭和52年10月,住民は「西名阪公害追放上中・今泉被害者同盟」を結成し,この道路の管理者である日本道路公団に抗議した。

 これ以後,今日に至るまでの住民の苦情の訴えと,道路公団の対応は下の略年表に示すとおりである。

住民苦情と公団の対応略年表

日付 高架橋被害の状況 被害住民の運動 公団・国・県・町の対応

昭和44年
3月

46年
5月



住民の一部に騒音に関する苦情が出る

 
対面二車線で西名阪道路供用開始

47年
12月

   
西名阪道路四車線全面開通
(制限時速80q)

48年
1月

 
高架橋直下に今泉児童公園ができる
 

12月

    公団,高架橋の一部(約20m)に防音壁を設置

49年
12月


住民の一部から振動に関する苦情が出る

住民,町・公団へ実情調査を要求

町・公団,実情調査を実施

公団「このような状況については,経験も資料もないので,直ちに対策はたてられない。今後,調査検討をしたい」

50年
3月

   
公団による振動調査
10月 公団,高架橋の両側に高さ2mの防音壁を設置するが,そのため被害急増 住民,町・公団へ調査・対策を要求 公団,高架橋の両側に高さ2mの防音壁を設置する
11月 町・公団の調査により障子がビビーンという音,太鼓のようにドドーンという音を発していることが判明 町,住民,公団による協議

県,町,住民,公団による協議

町・公団による実情調査

県,町,住民との協議で,公団は「@振動の原因は低周波と思われる。

A早急に分析調査を実施し,これに対応する措置を検討する。当面の対策として中央分離帯のすきまの遮蔽等を検討する」と解答

県による騒音・振動測定

12月

 

中央分離帯遮蔽板設置工事施工。

このため,かえって振動激化

 
 

 

 

住民と公団の協議会





町,住民,公団による協議会

公団による測定(中央分離帯遮蔽実験のため)

中央分離帯遮蔽板設置工事施工

公団による測定実施(中央分離帯遮蔽後)

公団,住民からの中央分離帯遮蔽板と防音壁の撤去の要求に対し,中央分離帯遮蔽板の撤去及び防音壁の試験的部分撤去の実施を約束

公団,住民からの仮住居補償等の要求に対し,「環境対策関係補償基準の確定,判例,その他国の指導等がない限り補償は出せない」

防音壁の一部撤去

中央分離帯遮蔽板の一部撤去

中央分離帯遮蔽板の全面撤去

51年
2月
   
公団による測定(防音壁撤去前)

公団冷泉地区内の防音壁(約370m)を全面撤去

公団による測定(防音壁撤去後)

3月   住民,町・町議会に対策を求める陳情書・請願書を提出 住民からの請願を採択,町議会特別委員会に附択
4月     町,騒音測定
5     町議会総務委員会,現地視察
7

 

 

 

 

 

公団,当面の対策として,藤井寺高架橋で橋桁床盤補強実験を行うこと(完成は昭和52年3月末予定)を町,住民に伝える。
10月 環境庁調査の結果,高架橋直下で97dB, 高架橋から10〜20mの地点
で90dBの超低周波を記録
  環境庁委託調査(小林理学研究所−アンケート調査,騒音・低周波の測定)
11月     町から公団へ落下物防止用の防護ネット設置,家屋対策等について申し入れ
52年
1月
   
公団,防護ネットの設置,ジョイント部分に塩化ビニールのカバーを設置することを町・住民に伝える。
3月     ジョイント部分カバー設置完了

防護ネット設置完了

4月     県公害対策審議会現地視察

町議会総務委員会現地視察

5月     町より公団へ家屋移転,補償,医療機関等について申し入れ
7月     公団,藤井寺高架橋補強実験結果につき,効果はみられなかった旨を町と住民に伝える
9月 汐見医師が現地調査,低周波85dBを記録   公団職員による高架橋下同盟事務所での測定と宿泊体験
10月   県,町,住民による初の話し合い

西名阪公害追放上中・今泉被害者同盟(以下「同盟」という)を結成。防止対策,医療補償等6項目の決議文を公団に提出し,回答を求める。

 

県・町,24時間測定宿泊体験調査

公団から決議文の回答(具体的なものなく,同盟は再回答を要求)

   11月

 

午前7時半頃,高架橋にて切削機による抜き打ち工事のため,住民10数人が目まい,嘔吐などの被害を受け,うち8人が救急車で病院にかつぎこまれる(いわゆる「今泉事件」)

 


工事再開のため住民避難(午前9時から午後4時まで)



 

 

同盟によるアンケート調査の結果,29世帯107人のうち85%が健康被害を受けていることが判明

同盟(以下,特にことわらぬ場合はすべて主体は同盟である)被害アンケート調査を実施

地元町議へ対策本部設置を依頼

汐見医師現地で診察。

この結果を12月24日「西名阪高速道路”今泉事件”聞き書き」として発表

西名阪道路藤井寺付近を視察調査




町総務委員会を傍聴

臨時総会

県に対策依頼

 
午前7時半頃,高架橋にて切削機による抜き打ち工事

今泉事件の抗議に対し公団は「因果関係の立証がない」と回答

 

 


公団,工事再開。騒音,低周波の被害が大きく,公団と交渉の結果工事中被害を受ける者は一時避難させることになり,避難先を約1km離れた旅館に決定


公団,決議文に対する再回答(具体的なものなし)

 

 

第1回4者会議(県,町,公団,同盟)。公団,遮蔽箱設置計画を発表

県,被害住民に対する治療につき県立奈良病院を紹介する

町長が西名阪公害問題で記者会見

県・町が住民健康アンケート調査を実施

12月 県が5日に実施した住民健康調査の結果が判明。13名が精密検査の必要あり(12月20,21,23日に奈良病院で精密検査を受ける) 奈良弁護士会の法律相談にいく

県議会を傍聴

町議員と協議会

長野県阿智村中央道の公害を視察調査


同盟事務長斉藤薫の一家が高架橋から約300m離れたアパートヘ転居

公団,遮蔽箱に関し説明会


県が住民健康診断を実施

県,公団,遮蔽箱設置前の測定

町議会,西名阪公害問題特別委員会(以下「公害特別委」という)を設置。

第2回4者会議(県,町,公団,同盟)

昭和53年
1月

要精密検査の住民が,奈良病院で脳波検査を受ける

弁護士と今後の対策について協議


伊丹空港公害の視察調査について協議

町長,町議長,公害特別委の委員長に要望書を提出

臨時総会

弁護士,現地視察


町議会,第1回公害特別


委環境庁現地視察(泉特殊公害課長補佐ら)

2月  

遮蔽箱取付工事開始


遮蔽箱取付工事が進むにつれ,振動が強くなったとの苦情が住民より出る。また高架橋からカラカラという異常な音が出て直下の民家で建具のゆれがひどくなる

県に請願書,陳情書提出


振動と遮蔽箱設置との関係について公団と話し合い。

遮蔽箱の即時撤去を求めるが,公団拒否

第2回公害特別委遮蔽箱取付工事開始

県議会公害交通対策特別

委員会による現地調査。

3月

 

  奈良県の道路公害反対の集会へ初参加(以後も参加)

遮蔽箱設置後の振動対策について公団,町,同盟で協議

遮蔽箱設置後のアンケート調査

第3回公害特別委

県,低周波の測定調査


遮蔽箱設置工事完了

町,西名阪低周波公害対
策のために交通公害課を
設置

4月   汐見医師による低周波測定

 

汐見医師による測定

弁護士と協議会

京大振動研究室による測定県へ遮蔽箱撤去の申し入れ

近畿行政監査局へ申し入れ

奈良県環境を守る会の集会にて報告

県,24時間測定

町,5昼夜騒音測定

5月 公団の測定で,高架橋から約500m離れた志都美小学校(用務員室)でも窓ガラスが振動していることが判明 臨時総会で遮蔽箱撤去要
求を決定

3者会議(県,町,同盟)

町,上中地区で騒音測定

同盟からの志都美小学校での測定

申し入れに対し,県は「原因者である公団がすべきだ」と回答

公団,志都美小で測定

公害特別委

6月 健康被害者の土庫病院への通院はじまる 土庫病院が研究,診療のプロジェクトチームをつくり集団検診と医療懇談会を通じて本格的に取り組みを始める。

3者会議(県,町,同盟)

弁護士が現地宿泊体験

公団へ遮蔽箱撤去申し入れ

公害特別委


第3回4者会議(県,町,公団,同盟)

7月

 

この頃今泉児童公園で遊ぶ子供達から頭痛,鼻血,胸の圧迫感等の訴えが強くなる 町に対し,7項目の要望と陳情書を提出
8月     3者会議(県,町,同盟)

豊中空港公害を視察

9月 弁護士によるアンケート調査実施 弁護士との協議会
町対策費を予算化する要
望書の署名運動始まる
弁護士との協議会
町,上中地区で騒音測定
PI P2ジョイント補修工
事県,P1 P2地点ジョイント補修前測定
公団,24時間体験調査と測定
10月 高架橋より民有地ヘダンボール一束落下 長野県阿智村中央道へ視察調査

この頃より町議会への請願の著名運動を始める

第2回同盟総会

弁護士との協議会

公団,県の同時測定(遮
蔽箱の効果判定のため)
11月 道路舗装改修工事


工事の騒音,低周波による苦情続出

斧末雄宅にて新たな振動が発生

住民の避難始まる

工事による健康被害のため,土庫病院より往診を受ける

公団より道路舗装改修工
事につき説明を受ける

環境庁に陳情書提出

道路舗装改修工事


工事の騒音,低周波によ
る苦情続出

12月

 

 

 

西名阪道路公害対策被害者・医師・弁護士3者連
絡協議会(以下「3者協」という)発足

弁護士との協議会

町民5,200名(町有権者の約3分の1にあたる)の著名による請願書を町議会に提出

同盟の申し入れにより,公団,試験家屋を完成

3者会議(県・町・同盟)

公害特別委

県・町,騒音と低周波測定県議会,原因究明に関す
る意見書を国に提出

町議会で,住民の請願を
採択

 
昭和54年
1月
 
弁護士との協議会

第1回3者協


環境庁が現地視察,試験

家屋での夜間体験

2月   西脇仁−東大名誉教授ら専門学者による現地視察 公害特別委

公団,試験家屋で測定

3月   第2回3者協

3者会議(県,町,同盟)

公団,上中地区で測定
4月   第3回3者協 公団,ジョイント工事説明会
5月 3者協による調査の結果高架橋から30m以内の住民のうち76%が不眠,60%が風邪様症状,40%がめまい,34%が鼻出血を訴え,30mから100mの間の住民については,それぞれ50%29%,20%,23%が上の症状を訴えていることが判明 3者協による被害実態調査(85世帯290名を対象)

第4回3者協

 
6月   県ヘジョイント改修工事の件で申し入れ

県警へ監視カメラ設置要求

公害特別委及び町助役ら長野県阿智村中央道を視察
7月   第5回3者協

町議との懇談会


公団の4者会議出席拒否の件で町と協議

公害特別委

県「公団は今後4者会議には出席しない」と発表

公団,同盟らに対し,試
験家屋の使用を禁止する
と通告

8月   公団との今後の交渉方法について県と協議

第6回3者協

4者会議にかわる西名阪道路公害問題対策協議会(以下「対策協議会」という)の第1回会合(県,町,町議会,上中総代,今泉総代)
9月   第7回3者協

同盟(弁護団),公団に対し,ジョイント工事(とついて中止・被害回復措置などを内容証明便で申し入れ

環境庁が低周波の生理学的研究結果報告書(過労者に対してはまばたきの増加,風邪の人には吐き気,脈拍数の乱れ等の悪影響を与える)を発表
10月 ジョイント工事のため,住民避難 臨時総会(行政側の態度如何によっては訴訟を提起することを確認)

第8回3者協

ジョイント工事開始

公団,同盟からの54年9月26日付内容証明書に対し「低周波空気振動については,健康問題との因果関係が未解明である」旨,文書回答

11月 避難先にて土庫病院検診

民家数軒に新たな振動発生

第3回総会

第9回3者協

汐見医師による測定

 
12月   第10回3者協

西脇仁−東大名誉教授,岡井杏林大学助教授による測定と現地実験

汐見医師による測定同盟(弁護士)から公団に対し,低周波と健康被害の間の因果関係についての調査の有無,被害住民救済の意志の有無等6項目について回答を求める内容証明書を送付

町が町営住宅へ避難体制をとる

所議会の公害特別委が上京して環境庁,建設省へ申し入れ

昭和55年
1月

住民,町営住宅へ一時避難

第11回3者協

公団,同盟からの54年12月12日付内容証明書に対し「公団としては同盟と交渉する必要はないと考える」等と回答する

公団,全線ストップして測定

2月   第12回3者協

岡井助教授による現地実験

今泉児童公園を閉鎖

県議会現地視察

対策協議会

3月 阪神高速道路大阪松原線と西名阪道路が直結し,
交通量増加で住民の被害増大
第13回3者協

第14回3者協

 
4月   臨時総会(訴訟提起については討議)

第15回3者協

 
5月   住民,ネズミを使った実験始める

第16回3者協

上京して環境庁,建設省公団本社へ対策と要望申し入れ

 
6月 斧末雄と同居していた斧春枝氏,病死

斧末雄宅で爆発音のような音を聞く

第17回3者協  
7月   第18回3者協

臨時総会(訴訟提起の決定)

対策協議会
8月

 

昭和54年5月12,3日の調査とこの日の弁護団調査によって原告準備書面記載の各原告の被害実態が確認される 国土研による現地調査

弁護団,現地にて被害実態調査

第19回3者協 

対策協議会

 

9月   第20回3者協

第21回3者協

第22回3者協

第23回3者協

臨時総会

西名阪道路公害裁判原告団結成総会

西名阪道路公害裁判を支援する会結成総会

 
10月 奈良地裁へ提訴